→短編・そんな時代のそんな日常
私の初恋は、中学生の時だった。
折しも、世界は突如現れたウィルスの対策に翻弄されていた。そのウイルスは、変幻自在な水のように人間たちの対策を躱し、世界中をさらにヒステリックな鎖国状態に導いていった。個人レベルの最たるものはマスク着用必須という日常。
話したこともない、マスク無しの顔も知らない人に一目惚れ。落ち着いた佇まいから目が離せなかった。
でも、マスク効果なんて言葉を知ったものだから、誰にも言えなかった。自分の恋をミーハーっぽく感じてしまった。
ある日、偶然に彼の名前を知った。
マスクがあるのを良いことに、そっと彼の背中に呼びかけてみた。ウイルスも通さないらしいマスクから出ないほどの小さな声で。マスクがあったから、そんなことしたんだろうな。
大学生の今、マスクはほとんどしない。久しぶりにマスクしたら息苦しくってすぐに外してしまった。よく我慢できたなぁと、大学で出会った彼氏とそんな話をすることもある。よくヘン顔したよね、とか。
良くも悪くも、私の中学生活は常にマスクがあった。
テーマ; そっと
1/15/2025, 3:09:34 AM