【まだ見ぬ景色】
「ふぅ〜」
私は乾ききったシワシワの左手を同じくシワシワの右手でさする。息子はちゃんと大学に行っているだろうか。それだけが今の私の心配...
「ただいま!」
その声の方向には30代だろうか、見ようによっては40代にもみえる、元気そうな男性がいた。
「久しぶりですね」
「あのーどちら様...」
「...お久しぶりです」
その私の声に彼は何も無かったかのようにもう一度、そう返す。
「元気そうでよかった。そろそろ一緒に住んでもいいかもしれませんね。」
「どうして、私があなたと?」
「おと...お爺さんも亡くなってしまい、独りだと寂しいと思います」
「そうですか?私はいつでもあの人が私の心にいると信じていますので結構寂しくはないものですよ、あの人は息子が高校生のときに亡くなってしまって...あれ、あなたはよく知っていますね。まぁでもそれに」
私は一呼吸置いて言った。
「天の絶景の前であの人はきっと待ってくれているはずですから。」
「そうですか、でもあなたが心配なのでまた来ます。」
そう言い残して彼は色々と家のことをしてくださった。掃除だったりなんだったりと。そして、まるで昨日も来ていたかのように彼は家の構造を把握していた。
「では、また来週来ます。」
そう言い残して彼は去ってしまおうとしていた。
「ちょっと待って、」
私は思わず彼を呼び止める。
「どうしてここまで...」
「いえ、あなたは僕の大切な人ですから。」
そう言いながら彼は扉を優しく閉めて家から立ち去った。気がついたら彼が来てから3時間?ほど経っていたようだ。もう冬も中盤に差し掛かってきたので、午後の寒さはかなり身に染みた。私はまた左手を擦りながらぽつりと部屋の隅で呟いた。
「たかし、ちゃんと大学行ってるかしら...」
1/13/2025, 11:57:11 AM