「優しさが痛い」
そう言って困ったように笑う彼の顔を思い出す。
あの日から連絡がつかなくなった。
いつもと同じような口ぶりで、いつもと同じ表情だった。
いや、いつもそういう顔をさせていたわけではなくて、そういう顔もするだろうな、という話で…
「わかったわかった、それでどうしたいんだ?」
珈琲を挟んで向いに座る男が、いかにも面倒です、と言わんばかりの態度を見せる。
店内は控えめなジャズと、郊外店舗らしい客層で賑わっていた。
「たまたま再会した小学校の同級生だろ?気にすることもなくね?」
何も言えないでいると、
「何回でも話は聞いてやる」と言って帰り支度を始めてしまった。
店を出てその男と別れた後、
自分はどうしたいんだろうと考える。
しぶる彼に選んでもらった服やアクセサリーを身につけ、
彼に過ごしてもらいやすいよう整えた家へ向かう。
鞄から取り出した家の鍵にはチップのキーホルダーが揺れていた。
(テーマ:優しくしないで)
5/3/2024, 7:55:16 AM