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「金を金に換える奴なんて居ないでしょ?愛に愛を返されても何も生まれない。だから俺は金を貰って、向こうは愛を貰う。愛情って対価ですから。」

 彼は、論破するでもなく、悟ってる風なわけでもなく、それがごく当たり前のように、この世のルールを教えるみたいに俺にそう言った。

「無償の愛じゃ食べれないので。まぁ、当たり前ですけど。無償なんで。」

 タオルで髪を雑に拭きながらスラスラと自論を述べ、ベッド脇のコンセントに刺したドライヤーを拾い上げた。それを黙ってじっと見てると、不満そうな顔をしてこちらへ向き直る。

「腑に落ちてない、って感じっすね。」
「うん。だって俺、金払ってないし。」
「貴方は別ですよ。」
「君の言う“対価”ってものがあるならさ、俺と居るだけ無駄なんじゃない?お金発生しないしさ。」
「違いますー。貴方とはお金目的で会ってないので適用外ですー。」
「そうなの?」
「そうですよ!むしろ、俺が払いたいくらい。こんなに愛してくれて、大切にしてくれて、俺のこと想ってくれてるんだから。意味わかんない。お金払わないとバランス取れなくてマジおかしくなりそう。」
「まじで財布出しそうだからやめて。……そしたらさ、俺と居るのは生産性のない行為、ってことでいい?」
「え、逆に何か生産性あります?物理的な。」
「ないわ。」
「でしょ?」
「案外正しい気がしてきた。」
「でしょでしょ。信頼とか、欲求とか、精神的な話してたらキリがないっていうか、それだけに支えられてる仕事の身としては何も言えないです。」
「じゃあ今日も、無駄で生産性がないのに俺に会ってくれるんだ。」
「あれ、怒ってます?」
「ううん。嬉しい。君が純粋な好意からここに居てくれてる、って知れてめっちゃ嬉しくなっちゃった。」
「こんなんで喜んでもらえるならもっと早く言ったのに。」

 無駄で、

「君が心赦してくれたと勘違いしちゃいそう。」

 呆れるほど堕落的。

「存分に勘違いしちゃってくださーい。」

 それがいつか勘違いじゃないと気づくまで、

 頑張って俺を愛してて。


 俺だけの貴方で居て。

11/27/2023, 8:38:48 PM