──まだ終わらないで、時を止めて
この感情を、この衝動を!
鋭く研ぎ澄まされた刃物のように、苦しくなるほどの高音を高らかに滑らせる、繊細で迫力あるヴァイオリン。変幻自在のピアノ、熱く刻むドラム、ほかにも、沢山の楽器の音。
8000を超える人間に、一心に見つめられながら、感情を乗せ、その喉を震わせ声を上げて!
表現者にして支配者となる、彼女らの歌声。
体の芯が、魂が震えるほど、想いと熱の籠った音に圧倒された。
溢れそうな声を喉元に押さえつけて、必死に、
この激情をたった少しでも届けるために、
腕が痛くなるほど、ペンライトを振り続けた。
爆ぜるようにきらり舞う照明が、華やかな衣装を身に纏った歌姫を、世界の中心に仕立て上げ。
光が彩なす舞台、歌姫に背中合わせになるように、この場を指揮する者が立つ。
所作の全てに、感情を乗せた指揮。
堂々と、繊細に、指揮棒を振る。
数多の奏者を導く、強い背中。
こちらにまで降り注ぐ光が胸を焦がした。
五感全てを使えるだけ使って、この一瞬を、必死に残そうとする。興奮で、体があつい。
苦しくなるほどに渦巻く激情、
喉を締めて、想いを噛み締めて、
頬を伝う雫すらぬぐわずに、ただ舞台だけを見つめていた。
これが最後なのだと気づきたくない。けれど、
手が痛むほどに強く、今できる最大の称賛を送る。心を、気持ちを、届かせるように。激しく、手を打ち鳴らした。
たくさんの轟音が鳴り響いた後、
幕が降りた舞台に響き渡る静寂。
ひとつ、息を吐いた。
感動に、心臓がふるえる。
詰め込みきれない感情が溢れて、
涙としてこの場に染みる。
瞳がチカチカとする。輝く舞台が、脳に焼き付いてはなれない。
まだ終わりたくない。
この場所で息をしたい、
まだ浸りたい、この言葉にできない感情に、
今この瞬間を、いまこの感動を、閉じ込めたい、残したい。この軌跡を、どうか、どうか、
時を、止めて!!
11/6/2025, 6:26:06 AM