—命の境—
白く深い霧に覆われた世界。地はなく、どこまでも開けた空間に、僕は浮かんでいた。
死んでしまったのか。
通学中のこと。原因は不明だが、トラックが歩道を乗り上げ、僕は跳ね飛ばされた。
まさか自分が交通事故に遭うなんて思いもしなかった。
その時、パタパタと羽音が聞こえた。一羽の白い鳥が僕の元に舞い降りる。
「ようこそ、生と死の境界へ。私は案内人のシロと申します」
礼儀正しい鳥だなぁと僕は感心した。
「あちらの光っている場所に行くと、新しい命を授かり、生まれ変わる事ができます。次にあちらの闇深い場所に行くと、元の世界で再び生きる事が出来ます」
霧の向こうに、確かに光と闇が見えた。
「どちらに行かれますか?」
問われるまでもなく、僕の体は自然と動いていた。
「では、行ってらっしゃいませ」
目を覚ますと、病室のベッドの上に居た。あちこちに包帯が巻かれ、事故の悲惨さが見える。隣では母が椅子で眠っていた。
まだやり残した事がいっぱいあるのだ。それが終われるまではまだ死ねない。
この選択を後悔しない様に生きようと思う。
お題:光と霧の狭間で
10/19/2025, 9:13:32 AM