「お客さん、終点です。」
車掌に揺すられ、目を覚ました。
しまった!寝過ごした!
終電の終点……なんてこった………
ホームからは辺りに灯りは一つも見えない…
無人駅じゃないだろうか。
空を見上げると紺碧の空にたくさんの小さな星たち。涼しい風がさあっと柔らかく吹いた。
もういいや。心地いい気温だしここで寝てしまおう。
まだ眠たかったおれはホームのベンチに横になった。
十分ほどした頃だろうか
タタタン…タタタン…
電車?
終電だったはずなのに
整備用の車両とか?
思っていると
青い一両だけの電車が目の前に止まった。
中にはお客のような人影も数名見える。
ええい!ままよ!
おれは吸い込まれるように電車に乗った。
タタタン…タタタン…
電車はおれの行きたい方向と逆に進んだ。
なんだよ。
まだ先があるのかよ。
おれはたいそうがっかりして
もういいや。
と電車のリズムに身を任せることにした。
朝
目が覚めるとおれは自宅の布団の中にいた。
あれは夢だった?
不思議な気持ちで仕事をしながら時折小首を傾げていたら、先輩が
「どうした?」
と声をかけてきたので昨晩から今朝のことについて話してみた。
「はっはっは。
お前、化かされたな!」
若いのになんて古風な。
「狐とか狸ってことですか?
それはないですって。
たぶん寝ぼけてたんですよ。」
「いやいや、
おれ、あそこの鉄道に知り合いがいるんだけど、出るらしいよ。その駅。」
「狸?ですか?」
「そうそう。
それでおんなじこと言う客がけっこういるらしい。
まあ、いつもってわけじゃなく気まぐれらしいから、運がよかったな!」
「狸………」
親切な狸がいたもんだ。
確かにあの景色じゃ(昼は一面田んぼとか?)狸はいるだろうけど。
ホームで寝てる人間が気になるのか。
邪魔なのか。
心配なのか。
それともいたずら心で驚かせたいのか。
そんな狸のことをぼーっと考えながら、なんかお礼をしたいと思うのだった。
「終点」
8/11/2024, 12:12:23 AM