そんじゅ

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王宮の使者が来たんです。王様がお呼びだって。

行きたいわけないじゃないですか!今度はどんな無理難題を吹っ掛けられるんだろうって、馬車の中で冷や汗を一斗もかきながら、急に痛み出した腹を撫でて我慢してましたよ。

控えの間で召使いの話を聞くに、先日献上したお召し物の着心地が悪くて仕方ないと。襟ぐりがチクチクするし、ボタンもうまく留められないと。私だっていっぱしの腕前を認められて御用職人を務めているんです。自分の作った服が出来損ないだと言われたら腹が痛いだのいっちゃいられない。

ドレスルームで王様のお越しを待つ間、何が問題だったか悩んでいましたね。素材か採寸か縫製か、あるいは型紙のひきかたに間違いがあったのか。必死で考えを巡らせながら控えてたもんですから王様の御前で頭を上げた瞬間、鼻から変な声が出ましたね。ぐふ、って。

確かに私の作った服を御召しではいらっしゃったけれども、それが前後どころか表裏も、おまけに上下も逆さまで身に着けていらっしゃる。

……これ、正直に話していいんですか?

はい、馬鹿には見えない服を作れとの仰せでしたので。

ええそりゃ縫った本人には見えますよ。でなけりゃ針も通せない。けれどそれを着せた召使いも、お召しになった王様も実は見えてはいらっしゃらなかったんでしょう。見えないだけで触れられますし、着られます。それがあだになってしまったんですな。

もう喉が震えてふるえて、気を抜くと吹き出してしまいそうなのを全力でおさえつつ王様からお服をお預かりして、あちこち縫い直してるフリをしながらこっそり袖をつまんで表裏を元に戻してお返しした訳です。

え?じゃあ王宮の皆も国民も王様の裸を見たのかって?

そんな畏れ多いことさせるわけないじゃないですか!
私が一緒に仕立てて王宮にお納めした下着は全て「馬鹿には盛装に見える下着」ですからね。


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「逆さま」

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所感:
才能も忠義心もある職人を召し抱えた、幸せな王様。

12/8/2022, 4:32:53 AM