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「あなた自分のことばっかりじゃない。だいたいね、不幸な人の背比べなんて私見てられないわ。私がいちばん不幸です。みんながそう言って何になるの?あなたはずっと何かを待ってるだけ。それってなんて言うか知ってる?」そういうと機械から加熱タバコの種を抜いて咥えながら話す。
「無能。バカ。間抜け。ドアホ。能無し。未熟。人形。そう人形そのもの。あなた待ちぼうけ人形みたいだわ」少量のヨダレとともに吸殻を吐き出した。放物線を描いて飛んだ吸殻はゴミ箱の縁にあたって床に転がる。彼女は小さな手で小さな顔を覆い溜め息をついた。数秒の沈黙の後出てってと呟いた。アパートを出ると光の粒が集まった人口ライトツリーが道を彩る。腕を組み合った男女2人組が白い息を吐きながら笑い合っている。通り過ぎた男の方からデパートの香水の匂い。人肌恋しいこの時期は空気が澄んで光がよく目立つ。

12/6/2025, 2:30:29 AM