詠み人知らずさん

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「ねぇ、行かないで」
私は眠い目を擦りながら女性の裾を掴んだ
「、、、すぐに帰って来るから」
しかしその声とは逆に彼女の口どりは重かった
「本当❗えっとね、帰ってきたらね遊園地に行きたいの」
「早く帰ってきてね、ママ❗」
「行ってらっしゃいー」
母の後ろ姿なんて覚えていない
もう既に思い出したくもない
「ママ、遅いなぁー」
あの頃の私がバカみたい

カレンダーいっぱいに描かれた赤い丸
床に散りばめられた七色のクレヨンと紙
ごみが溜まりにたまった部屋に
ポツンとアルバムが一つ
帰ってくると信じてた
いつか「ごめんね」ってギュット抱き締めてくれるって信じてた
そしていつか「大好き」ってずっと一緒にいてくれることを願ってた
いつかいつかぁ「愛してる」って「世界一大好きよ」って、もうどこにも行かないって誓ってくれると思ってた。
だから昔は思ってた
私が悪い子だから帰ってこないんだって
どうやったら帰ってきてくれる?お母さん
「ねぇ、愛香あんたってシングルマザー?」
「うん、そうだよ、昔色々あってさ」
「まぁ、今はまだお母さん帰って来ないけど」
私は、昔を思いながら苦笑いをした
「えっ、それってやばくない?男のところに逃げたとか、、、、」
「どうして?」
「えっ?」
「だって親は子を愛するのが普通でしょ?」
それが全力の嘘だったのかもしれない
彼女が笑ったその笑みにはどことなく悲しく、むなしく、残酷だった。

10/24/2023, 5:25:43 PM