Ichii

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目が覚めるまでに

アプリを開いて一番上にピン留めされた君の名前をタップする。最後のトークから半年以上たっている。当たり障りのない会話で終わっているそれを暫し見つめ、結局新たに文字を打ち込むこともなく画面を閉じた。
リアルで会えなくても定期的に連絡を取ろう、どちらが言い出したかわからない約束はいつの間にか立ち消えて、僕たちの間を繋ぐものはこれだけになってしまった。
他称、自称共に親友と呼びあった僕ら。たった一年前のことなのにいつかの思い出たちが遠く昔のことのように、色褪せた絵葉書みたいに脳裏を掠めていった。
毎年行っていた近所の祭り、今年も開催されることを知っていて、誘うことをためらったのはお互い地元を離れた場所でそれぞれの人生を歩み始めたことで生活のペースも変わってしまったからで。慣れない生活の中で僕が声を掛けてしまったことで手間を掛けさせてしまうのではないか、君が断りを入れることで気まずい思いをしないか、声をかけられない理由は様々浮かんだが、一番恐れていたのは返事すらも返ってこないことだった。
元々人見知りの気質が強く、長く一番の関係を築いてきた君と離れることに抵抗感と不安のあった僕ですら、新しいコミュニティにはこの数ヶ月ですっかりと馴染んでいた。いっそ、拍子抜けするぐらいに。
事実、君のことを日々の中で思い出すことすら減っていた。
それが少し恐ろしかった。変わっていくことが、忘れることが。そして、僕も同じように過去の存在として忘れられることが。
目を閉じれば記憶の中で、君が笑っている。それに僕は同じだけ笑い返して、当たり前のように君の隣に並び立つ。
何度も脳裏で再上映される情景は、思いの外短くてすぐに現実に戻されてしまう。
あの日々は、今思い返せばまるで夢のようであったと、どうしょうもなく胸が痛んだ。

8/3/2023, 5:59:43 PM