ボロボロのアパートの一角、インターホンなんて大層なものはなく、コンコンとノックがされた。
「……チッ、こんな夜中に誰だよ」
疲労と眠気と押し付けられた書類から、𓏸𓏸はノックをしてきた人間にやり場の無い怒りを向けた。
「……はい」
「…………あ、ごめん……寝てた……?」
不機嫌そうに扉を開けた先には、何故か息を切らしてベトベトに汗をかいた××がいた。実に高校以来、5年振りの再会である。
「……何しに来たん」
「えっ、とぉ……行く場所が無くて……?」
「……そんで元彼の家来るやつがおるか。その辺のネカフェでも泊まってろや」
「……1泊だけ!だめ……?」
そう言って××は覗き込んでくる。角度が危うい。汗で張り付いたTシャツは当時より成長した体のラインを強調していて、何とも目に毒だ。
「……とりあえずシャワー浴びてこい」
「ありがと!信じてた!」
「……服は新品のやつ出しとく。ブカブカでも我慢しろ」
「うん!」
歩き出した××が数歩歩いただけでふらりと倒れる。咄嗟に𓏸𓏸が支えたその手ですらも痛そうに顔をゆがめた。
「……お前」
「ご、ごめん!何でもない!シャワー浴びてくる!」
逃げるように浴室へ向かう××を見て思い出す。喧嘩別れでは無かったため、偶に連絡を取り合っていたのに一時期からピタリと生存報告が無くなったこと。そして痛みに耐えるような歪んだ表情。突然の訪問。
「……アイツ」
玄関の扉に鍵をかけ、××が好きだった夜食を作り始める。勝手に××の置かれている状況を想像して、勝手に体が動くのはまだ心のどこかで……そこまで考えて膨らむ思考を押さえつけた。
『突然の君の訪問。』
8/28/2024, 11:01:37 AM