「ふぅ…ちょっと休憩…」
課題を一区切り終わらせると、椅子から立ち上がる。体を伸ばし、固まった筋肉をほぐす。
「おやつでも食べよう。冷蔵庫に何かないかな…」
自室から出ると、階段を降りる。一階のリビングを通り、台所へ向かい冷蔵庫を開ける。
「何かないかな~…冷蔵庫には何もないな。冷凍室のアイス食べるか」
冷凍室からソーダ味のアイスを取り出す。包装を剥がし、ぱくりとアイスを頬張る。途端に口内に冷たさと甘味が広がり、頭が冷えるのを感じた。
「うーん、冷たくておいしい!やっぱり、頭使った後はアイスだよね」
アイスを頬張りながらリビングに戻ると、ソファに座る。
「今テレビ何かやってるかな~…っと何これ?」
リモコンを取ろうとテーブルに目を向ける。白い空き箱が置いてあった。さっき通り過ぎたときには、テーブルの上にはなかったはずだ。中には、メモ書きが入っている。
「『欲しいものを書いて』…欲しいもの…?」
いきなりそう言われると咄嗟に出てこないものだ。
「欲しいもの…うーん、服と靴?いや、漫画…あ、ゲームも良いなあ。高くてお小遣い足りないんだよなあ」
ぶつぶつと呟いていると、庭の方からバンッ!とガラスが叩かれる音がした。そちらを見れば、庭に出られるサッシ戸を覆うように大きな手が張り付いていた。
「えっ何」
「欲しいもの早く書いて。お前のためなら何でもやるから、早く早く」
男とも女とも分からない声が外から聞こえ、大きな手が催促するように、バンッバンッとサッシ戸のガラスを叩いている。
「欲しいものをあげたらお前は嫁になるんだろ、早く」
「そんな話聞いたことないよ、やめてよ」
「聞いてなくても、お前は嫁だ。もう決まった、早くちょうだいちょうだい」
話しかけたからか声のトーンが上がり、叩く勢いが強くなった気がする。サッシ戸のガラスにヒビが入る。、
「ガラスが割れちゃう…」
「早く書いて早く書いて。早く来い早く来い」
もし割れたら、そのまま中に入ってきそうだ。嫁にするなんて言ってるが、きっとろくな目に合わない。取り敢えず、欲しいものを書かなければ良いんだろう。
「分かったよ、書けば良いんでしょ」
テーブルに置いてあったメモパッドからメモを一枚取り、ペンで殴り書くと空き箱に突っ込んだ。すると、空き箱は消え、ガラスを叩いていた手も消えた。静かになったから帰ったようだ。
「何もいらないから帰ってって書いたけどこれで大丈夫だったのかな…」
「お前の望み通り、今日は帰ったぞ。次は、お前を迎えに来るからな」
先程の声が室内に響いた。欲しいものを書いたら、じゃなかったのか。溶けてきたアイスと自分の汗が垂れてきて手がベタベタする。どうやら、私は選択を間違えたようだ。
4/21/2024, 7:46:47 AM