そこは爆発と爆音しかない場所のはずだった。
しかし、自分の耳にそれらは聞こえない。あぁ、ついに耳をやられたか。
ぼんやりと思っていたら微かに歌声が聞こえてきた。
ここは戦場だ。歌なんか聞こえるはずがない。ついに幻聴か。敵襲と間違えるからいっそ耳を潰すか。いや、むしろ幻聴が強化されるかもしれない。
そんなことをぼんやりと考えていたら、女がひょっこり顔を出してきた。
「あの、大丈夫ですか?」
どうやらさっきの歌声は幻聴ではなかったらしい。
「お前、ここの現地民か?」
「うん。」
「ここにいたら襲われるぞ。」
「それは平気。」
けろりとした顔で横に座り、彼女は俺の傷の手当てを始めた。
「物資の無駄遣いはやめろ。お前の仲間に使え。」
「私はあなたに使いたいの。」
彼女は手をあわせて祈りの言葉を呟いた。
「青い風が、あなたをいざないますように。」
「お前の神か?」
聞いたことがない祈りの言葉だった。
「はい、神……の話をすると長くなりますが。」
さも面倒そうな顔をする彼女に、思わず吹き出してしまった。信仰していると自称している割には扱いが雑に感じたからだ。
「どうせ次こそ爆撃を受けたら終わりだ。聞かせてくれ。」
「人の信仰している神を暇つぶしに使わないでもらえます?」
「めっそうもない。布教は神の教えにないのか?」
「ないですね。面倒な教えは聞かなかったことにしているので。知らなければ無いのと同義です。」
やはり彼女の、自身の神に対する態度は雑だ。おそらく彼女個人の考えなんだろう。
彼女はそういいながらも歌を交えながら物語を紡ぐ。先程の祈りの言葉も相まって、流れる風が色付いたように見えた。
【青い風】
7/5/2025, 2:12:05 AM