雪の静寂
頬に触れた雪は淡い熱を帯び液体へと姿を変えてゆく
しかし真冬の山の中は自分の耳鳴り以外は何も聞こえない
文字通り誰もいないからそうなのだが…
麓の小さな山村では収穫期に熊が出るようになった
俺もそうだが狩猟ができる者は行政により全員駆り出された
そのせいもあって一匹また一匹と熊はその頭数を減らしていった
雪も疎になってきた頃
一頭だけ大きな熊が出没するようになった
この時期に出没すると冬眠せずに目の前にある食料を食い尽くす傾向にある
…人間も含め
この小さな村では厳冬期までに十七名が襲われた
幸いなことに死亡者はいない
皆口を揃えて言った
「白い熊だ」
と
俺たちは四人で組み追い込みをかけた
雪山の中で気は張ってたが野生の感性に負けた
アルビノで見えないのもあり仲間が二人襲われた
多分即死だ
俺は撃ったが当たっても動きが止まらない
二発目を打ち込んだが向かってくる
三発目を外し俺は弾を込めながら離れていた最後の一人に叫んだ
「逃げて人を寄越してくれ」
俺は直後に撃った
心臓に確実に当たったが振りかぶった腕は止まらない
右肩から左脇腹にかけて抉られた
白い熊も俺も胸を赤く染め仰向けで雪に沈んだ
猟銃を扱うようになって聞こえる耳鳴りだけが俺には聞こえていた
…頬に触れた雪は淡い熱を帯び液体へと姿を変えてゆく
雪が紅く染まってきた
耳鳴りが小さくなっていく
俺にとって初めての無音の世界で舞い散る雪を眺めながら
灯火は消えそうになっていった
12/17/2025, 12:18:43 PM