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おととしに行った港町はよかった
こぢんまりして穏やかだった

長い波止の端で 係船柱に腰かけて
日が暮れるのをぼんやり眺める時間はよかった

遠くに見える向こう岸に
点々とつらなる車のライトがなんかよかった

夜なると真っ暗だった

防波堤沿いに歩いてると
高いコンクリートの向こうから波音がきこえた

並んだ街灯が頭上と足元から 防波堤を指すように
すーっと灯りを落として 光の帯だった

影と交互に等間隔に続いて 縞模様をつくってた

誰もいなくて静かだから
自分が外の世界に拡張されたみたいだった

早起きしてつっかけのまま散歩してたら
猫に膝上を奪われた かわいかった

あったかいかたまりが呼吸するたびに
膨らんでは萎むのは 見てて飽きなかった

泊まった宿に置かれてた
えんじ色の掃除機をまだ覚えてる

どこにいても波音がきこえる気がする港町だった
また行きたいね

7/5/2025, 12:06:32 PM