落雷が人間を直撃する確率は百万分の一だそうだ。
どれくらい前に見聞きしたのかてんで記憶していない。俺の中で、日常の雑談として消費されたはずの雑学は、平素の中できみが何気なく話頭においたことで思い出した。
喋ることが好きなきみだ。
自席が前後の俺たちはよくお喋りをした。先の話題に俺はこたえる。今度は俺からなにか言って、次にきみが喋って。ふざけては笑って、笑っては喋って、答えては話して。
それでもって日が暮れて、部活をして、帰って飯を食って、湯船に浸かって、そのとき初めて、どうしてあの子を前にすると思うように返事を返せないのか思いあぐねた。
海馬に大切にしまって置けないほどの思い出を過ごしたのに、言いたい思いも聞きたい言葉も、今日に至るまで二人が交わした言葉の中に存在しない。つぐんだ口から胸に落ちて、嵐みたいに暴れていた。
春のその最中。俺の胸の、心臓がある片側の、ちりほども違わずにど真ん中を百万分の一の衝撃で撃ち抜いたきみはまるで、春の雷であった。
何気ないふり
3/30/2024, 12:42:23 PM