導(しるべ)

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「マナがタバコとか珍しいじゃん、なんかあったの?」
同居人の大半が眠りについた午前2時、思わず目が覚めてしまったからベランダに出て先日買ったタバコに火を付けた。
いつもは同居人たちの前では吸わないのだけど、今日はなんだかどうでも良くなっていた気がする。
「あぁ…なんもないよ。旭こそ珍しいやん、こんな時間に起きとうとか。夜更かし?」
そう言うと、彼はばつが悪そうに目をそらした。
「なんか眠れなくてさ。今日くらいはいいでしょって思って」
いつの間にか彼は横に来ていて、「一本ちょうだい?俺も吸いたくなっちゃった」なんて言われた。
彼とは身長がほとんど同じだから、目立つピンク色の瞳とばっちり目が合う。
やっぱり綺麗な瞳だと思いながら、タバコの箱から一本取りだして渡す。
「ありがと」
彼がそう言って、ポケットをまさぐる。
「ねぇマナ、ライター部屋に忘れちゃった」
彼がこういうときは、「取りに行くのが面倒だから貸してほしい」の意味であることを最近分かってきた。
「しゃあないなぁ…ほら、もうちょいこっち来ぃよ」
手招きを小さくする。
「はい、どーぞ」
と彼が言ったから、こちらも顔を近づけてタバコの先端同士を合わせる。
じゅっ、と音がしたのを確認して離れる。
「ん、ありがとね」そう言って、彼は煙を吐き出した。

同居人たちが目を覚ますまでのふたりだけの時間。

8/3/2024, 2:26:22 PM