ある日私の宝物を壊された。
随分と昔の物だから古臭いのは百も承知。
それでも大事な物だから大切に大切に身につけて来たんだ。
相手も悪気が有ったわけじゃない。
ただ私を驚かせようとしただけ。
肩を押された衝撃で手から離れて行った私の宝物は地面に飛び散った。
その瞬間、思考が停止したのがわかった。
私は散って行った破片を拾い集める。
もしかしたら直るかもしれない。
「ゴメン そんなつもりはなかったんだ」
声のする方に顔を向ける。
私の落ち込んだ顔を見て更に焦った様に相手は言葉を重ねる。
「本当にゴメン 似たものを弁償するよ」
私の気分は最悪だ。晴れるものじゃない。
周りがザワザワと雑音をたてる。
「わざとじゃないんだしさ、許してあげなよ」
「ほら、新しいの買ってくれるって。それ古かったから丁度良いじゃん」
彼らは飛び散った欠片などに興味は無いようだ。
ただ大きな声でその人が故意で無かったことと、コレを弁償することを周りに訴えている。
そして未だに私が相手を許さないことも。
私が悪いように言う。
ならばトビッキリの悪役になってやろう。
「コレね。私の祖父からの頂きモノなの。赤い実を赤い瑪瑙で、葉を翡翠で南天に模した根付け。それを紐の方を少しイジってあったの。まぁ古いものだから壊れ安かったとは思うけれど。弁償してくれる?」
相手は固まった。
そして散らばった実を拾い始めた。
周りの者は散って行った。
相手は実だけ拾い集めると、さっさと帰ってしまった。
コレでいいだろ?と
翡翠の葉は未だ行方知れずのまま。
題(宝物)
11/20/2022, 12:36:54 PM