No Name

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太陽が別れを告げる夕空、放課後。
その下で友人とわたしは、帰るべき場所へと向かっている。

「ねえ、時間が戻るならいつの時代に戻りたい?」
素朴な雑談のテーマといったところだろうか。友人は唐突に話し始めた。
「うーん、いつの時代か......。江戸時代かな」
日本史の小テストが明日あるので、思わず浮かんだ時代を口にする。
「それ、小テストの範囲じゃない?」
友人は吹き出しながら、私の答えに突っ込む。コンマ1秒で友人に心の中を読み取られてしまった。
ばれたかーと、頭をかきながら、友人にも聞いた。
「じゃあ、そっちはどの時代に戻りたいの?」
「私はねー......」
友人は、か細い腕で背伸びをしながら答えた。
「文化祭の日」
こうして、 交差点前についた。
「じゃ、ここから1人で戻るね」
そう言いながら友人は横断歩道を渡っていく。
「大丈夫?道わかる?」
「馬鹿にしないでよねー」
小言を言い合いながらも、友人は遠くへと消えていく。
何か言いたいのに、言葉が詰まって出てこない。
次第に歩いていく姿は、視界が滲んでよく見えなかった。

「文化祭の日」
あの日は本当に楽しかった。友達とやりたい事を全力で準備してやり切って。これ以上ない出来事だった。
でも翌日、私は救急搬送された。癌だった。手術をしても、進行が早かったので寿命は半年。
すぐ学校は行けなくなった。でも、たまに病院近くを通る友達へ会いに行くために、こっそり病室を抜け出した。
真面目で生徒会も受験も忙しい、私の友達。
もっと一緒にお出かけして、お弁当も食べて、テスト前には勉強会もして。恋バナとかもしたかったな。
交差点を渡る途中、痩せ細った体を無理矢理動かしながら、考える。でもきっと、
「文化祭が楽しかったな」
そう、戻れるなら文化祭の日がいい。友達と過ごした1番楽しかったあの日。
だけど、ちょっと違うかも。
「戻る」というよりは、あの日を永遠に。そう、いっそのこと『時間よ止まれ』。これが合っているだろう。

9/19/2023, 5:44:48 PM