「私を好きになったこと、後悔してますか?」
海を眺めていた彼女が、不意に口にしたのはそんな言葉だった。なびく髪を手で押さえた彼女は、こちらを振り向くことなくたたずんでいる。
その背には、傷ついた羽がある。もうろくに動くことのない羽は、それでも腐らずに彼女の身に固定されたままだ。
「まさか」
「でも私はあなたの寿命を削っているも同然です」
彼女のか細い声を、波の音が飲み込んで運んでいく。ああそんなことかと、彼女の横顔を見つめたまま私は微笑んだ。
そんなことは大したことではないのに、彼女はまだ気にしているらしい。こんな愛らしい天使と一緒にいるのだ。そのくらいのことで、私は思いを捨てたりしない。
「そんなことはどうだっていいさ」
「でも」
「それに後悔というのは選択肢があった時にするものだ。君に出会った以上は、好きになるしかない。後悔しようがないだろう?」
少しおどけたようにそう言えば、ようやく彼女はこちらを見た。今にも泣き出しそうなその面持ちを見て、私は頭を傾ける。私には、彼女を笑わせるだけの力が不足している。これが目下の困った点だった。
彼女が天使病にかかっていなければ、きっと私のような古びたロボットは出会うことすらかなわなかっただろう。こうやって話ができることは奇跡なのだ。
確かに海はロボットには相応しくない場所だ。長くいれば錆びる。それはロボットにとっては致命的だった。だが彼女の病にはこの海風が一番効くという。ならばなんの躊躇いがあろうか。
「最後の時まで、君のそばにいるよ」
果たしてどちらの命が尽きるのが早いのか。それはわからなかったが、共にいられるのなら私には何も問題はなかった。
5/15/2023, 2:27:51 PM