noname

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 夏祭りの夕暮れに、出見世の熱気。首から伝う汗が、浴衣の衿にするりと逃げる。
 私があなたにねだったのは、瓶ラムネのビー玉だった。カラカラと、飲み干した瓶の口を開け、あなたが神社の手水舎でちょいと洗えば、町も花火も逆さま模様。
 あなたの手のひらから、親指と人差指でつまんで空にかざす。ドォン、と音をひびかせる大きな花火を閉じ込めて、見物客の歓声に浸す。
 きれいですね、と言うあなたに、そうですね、と返事して、また、ドォン、と大きく空を彩る花火に、あなたが目を向けているすきに、私は、この夏を閉じ込めた小さなビー玉に、さっきまで、あなたの唇が触れていたガラスの肌に、そっと接吻する。
 冷たい感触と、急にほてる肌。
 あなたがそれを見ていたなんて、私が知るのはもう、ずっとずっと、後のこと。


【視線の先には】

7/19/2023, 12:19:18 PM