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 アンタの人生がお金で買える程安い訳ないでしょ。呆れたように言った親友は、馬鹿ねえ、と私の前にしゃがみこんで止まらない涙を拭ってくれた。
「アンタは世界でひとりしかいないの。国家予算規模でお金積んだって買えるような命じゃないんだから」
 端金で私の大事な人を売ったり傷付けたりしないで。ごし、と強めにタオルで目元を擦られて流石にちょっと痛かった。それでもやめてなんて言えやしないし、言いたくもなかった。そうやって心配されるのが嬉しくて、でもそんな気持ちはなんかよくない気がして、ありがとうも口にできないまま、やっぱりぽろぽろ涙を溢すしかないのが自分でももどかしい。
「ひ、ひよちゃ……っ」
 ごめんねえ、としゃくりあげながらそれだけはなんとか伝えると、彼女は自分の方が痛そうな目をしてくしゃりと綺麗な顔を歪めていた。唇を噛み締めて首を横に振る姿は悲しそうで、私の涙まで倍増して流れていく。
「……アンタが、倒れる前に解ってよかった」
「……っぅん、うん、」
「もうこんなになるまで無理しないで」
 お金よりアンタの方が大事なの。そう掠れた声で訴えた彼女が、私の両手を掴むとぎゅうっと強い力で握り締めた。微かに震えている気がするのは、本当に心配してくれたからなんだろうなと思う。
 こんな風になるまで自分を心配してくれる人がこの世にはいるのだ。改めて気付かされた親友の有難さに、止められない涙がまた頬を辿って落ちていった。ひよちゃんありがとう。ごめんね。そればっかりをたどたどしく繰り返せば、彼女の目元にも水が溜まって、ぽたぽたと地面に落ちていく。
「なくさないでよかった」
 よかったあ、と気が抜けたように呟いた彼女の手が、いっそう強く私の手を捕まえる。その痛いくらいの力加減がなんだか胸に迫って、私は言葉も出ない唇をこれ以上震わせないよう、きゅ、と一生懸命噛み締めるしかなかった。

お題:お金より大事なもの

3/8/2023, 1:37:26 PM