【逃避行】
自転車でどこまで行けるだろうか。
そんなことを考えて、実践したことがある。
島の環境は閉鎖的で、革新だの変化だのを好まない人達の集まりだ。
昔からある謎の儀式、おかしな習慣、夢すらまともに追えない人生。
もううんざりだった。
自分だって、人間なんだよ。
カゴに大きな鞄を入れ、いざ出発した。
なんとなく東に向かって進んだ。
空は素敵な青天井だった。
やがて教会が見えてきた。
スルーした。
見たくない。
素敵な庭園が見えた。
ここら辺はあまり通らないから、少し気になる。
中に入ってみると、色とりどりの花がお迎えしてくれた。
小鳥の囀りは自由を歌っているようだった。
並木通りをスイスイと通っていく。
夏の厳しい日差しを遮ってくれて助かった。
門に着いた。
この外を出れば、知らない土地だ。
しかし僕は通れなかった。
ここを通ればどうなるか知っていた。
厳しいお仕置きが待ち受けている。
どんな仕打ちをされるか分からない。
そんな本能的恐怖から、僕は立ち竦むことしかできなかった。
引き返した。
並木通りを通り、庭園の前を通り、教会を無視して進んだ。
結局、ここから出られなかった。
やっぱり怖い。
何が、何が逃避行だ。
僕にはそんなの、出来やしなかった。。
家に帰った。
両親はまだ寝ている。
僕はそっと自室に戻って、布団をかぶった。
何だか悲しくなって、枕を濡らしてしまった。
8/14/2024, 1:54:02 PM