「あの子、泣かないんだけど」
後ろから声を掛けられ、振り返る。
見たことの無い女子が俺を見上げていた。あの子、と言われて咄嗟に思いつくのは、よく校舎裏のゴミ捨て場にやってくる一人の女子生徒。
「誰の話?」
とぼけてみせると、彼女は眉間にぎゅっと皺を寄せて俺を睨んできた。
「ここに来てるでしょ」
「さあ。色んな人が来るから」
「はぐらかさないでよ。あんたのせいで、あの子調子に乗ってんのよ」
ああ、なるほどね。いわゆるイジメっ子ってやつ。
そういえば友達いないって言ってたな、と思いつつ、彼女を睨み返す。
「調子に乗ってるかどうかは知らないけど、お前みたいな奴相手にアイツは泣かないよ」
「……ほ、ほら! やっぱり知ってるんじゃない!」
「はぁ……ま、生徒同士のアレコレに俺は口を挟めないけどさ。アイツがもし泣いてここに来たら……」
ざり、と彼女の右足が一歩後ろに下がる。
「真っ先にお前をぶっ飛ばしに行くから」
ヒキガエルを潰したような悲鳴の後、彼女は俺に背を向けて去っていった。冗談なんだけどなー、と呟いてみるものの、彼女に届いたかは怪しい。
別に特別仲がいいわけではない。でも、多少の牽制くらいは良いだろう。これでアイツが平和に生きれるなら安いもんだ。
3/17/2024, 2:03:08 PM