ガラスのような色をした目の玉から
涙がはらはらとこぼれ落ちている
いつも卵の殻のように不自然に白かった肌は
一皮むけたかのように
紅色に染まっていた
ー
「運が悪かったね
あなたみたいな可愛くて若い子が気に入らない意地の悪いババアはどこにでもいる、あなたは悪くないよ」
私が差し出したホットココアを
ありがとうございます、と
潰れたハムスターのような声で受け取ると
両手で包み込んで、すすり始める
新卒で入社してきた
この一際若いギャル風の女の子は、
初日髪色で怒られるわ
ネイルで注意されるわ、
カラコンの色はすごいわで
職場でかなり悪目立ちしていた
そのせいもあってか
御局様に目をつけられ、
随分こっぴどく、
自尊心を傷つけるようなことを
言われたらしくこの様だ
下手に歳をとると、
人を傷つけることばかり得意になるんだな、と
会社の年増たちを見ていつも思う
「でも職場のルールはある程度守らないとね
お客さんも、一緒に働く私たちも、
気持ちよく働くためのものなんだから」
「でも可愛くないと嫌で」
「ん?」
「先輩、なんで髪の色は派手じゃダメなんですか?なんでネイルも短くなきゃダメなの?カラコンだってブルーでもいいじゃん、誰に迷惑かけてるの?」
瞬間、わっと小さな火山が噴火したかのように声を荒らげると、
すぐにすみません…と自ら萎んでいった
「わたし、可愛くないとやる気出ないんです、だから可愛くしたいのに……なんでダメなの、先輩は思ったことないんですか?」
まだまだ大人になりたての幼い視線が私を刺す
黒髪、薄化粧、短いネイル、平凡なオフィスカジュアル
この若い娘の目には
私は相当退屈な大人に写っているだろう
私の口角は懐かしさ故か少し上がっていた
「あったよ、私も昔、可愛くなりたくて可愛くなりたくて髪をピンクにして付け爪をつけて、紫のカラコンをつけてフリフリのお洋服を着てた」
あなたなんかよりよっぽど凄かったんだから、と
付け足すと少女の眼が輝いた
写真を見せると
彼女から小さな悲鳴が上がる
「すごーぃすごい!!可愛い!先輩ですかこれ!?」
「あはは、我ながらねえ」
「でも、なんで辞めちゃったんですか……?」
「……なんでだろうね、気づいたからかな。もちろん見た目は大事、それはそう。でもそれと同じくらい中身も大事、ほら星の王子さまだって大切なものはなんとやら〜言ってるじゃない?あと1番は歳だな!似合わなくなった!この歳であれは着れないでしょ!」
かっこいいことを言おうとして言えなかったので年で誤魔化すと、彼女は食いかかるようにかぶせてきた
「そんなことないです、人はいつだって自分の好きなように生きていい」
ふいに目の奥がツンとした
ああ若人よ、
どうか挫けず折れず
周りにどう言われようが
この先思うように生き、
存分に限りある人生を楽しんで欲しい
心の底から思った
私にも全く同じことを思っていた
若い頃があったはずなのに
気づけば、
色んなものに揉まれてつまらない大人になってしまった
板ずりされたオクラみたいだ
後を引く涙を止めてやろうと私は
もう一本ホットコーヒーを奢ってやった
私は、つまらないなりに若い人を応援しよう、
それは私が置いてきた若い頃の私の意思を救うことにもきっと繋がる
午後休憩を2分オーバーして過ぎた日を想うのであった
10/7/2023, 1:37:06 AM