未知亜

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「ダイヤモンドダストって、見たことある?」
 きみはよく、地元の冬の話を僕に聞かせてくれた。ダイヤモンドダストの話は、特に僕のお気に入りだった。お酒が回ると、僕は決まって君に、光る氷の粒の話をねだった。
 空気中の水蒸気が寒さで結晶化して、太陽光を反射し輝くのがダイヤモンドダストの正体だ。良く晴れた無風状態でしか見られない物だという。息が凍るほど寒いと、吐いた息に含まれる水分が耳許で凍ってかすかに音が聞こえる。それと同じように、ダイヤモンドダストもさらさらという音がするらしい。
 実際に見た時の話を、君は毎回言葉を変えて僕に話して聞かせてくれた。そして最後に決まってこう言うのだ。
「すっごく綺麗だよ。絶対見た方がいい」
 南国生まれの僕には、想像も出来ない世界だった。
 虹のように輝く氷。ふたつと同じ形のない雪の結晶。君の話に僕の想像は膨らむばかりだった。そんなものをこの先すべて、ふたりで少しずつ眺めるつもりでいた。

 君を失ってから、僕は実物を見るのをやめた。代わりに手の届く限りの美しい物を見た。
 花火を見ても蛍を見ても、星空を見ていても、僕の心には君の話してくれた雪の輝きが降り注ぐ。その輝きが消えるまで、僕は君の笑顔を数える。君という輝きが、ずっと僕と共にある。


『輝き』

2/17は「天使のささやきの日」だったんですね!
ダイヤモンドダストの音も、こう呼ばれるそうです。

2/17/2025, 4:10:24 PM