作家志望の高校生

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裏社会の人間が、まともな死に方をできるはずがない。
そんなことは分かっていた。分かっていた、つもりだった。
目の前で冷えていく兄だったものを前に、俺はただ打ちひしがれていた。
今日は1日中、酷い雨だった。少し先の視界さえ霞んで見えるほどで、コンクリートの冷たい地面が、含みきれなかった水で満ちて鏡のようになっていた。
ちょっとした抗争だろうと、そう思っていた。いつものように、部下にでも向かわせればすぐに片付くだろうと。
けれど、送り込んだ部下十数人は、いくら待っても戻っては来なかった。
様子見で送り込んだ下っ端も下っ端の雑魚だったし、次で終わるだろう。そう誰もが思っていた。
でも、次に送り込んだ幹部級の強さの者達でさえ、戻っては来なかった。
流石におかしい。これは、ただの抗争ではない。
でなければ、苛烈な訓練と死線を潜り抜けてきた先鋭とも呼べる幹部達が死ぬはずがない。
そこで、首領たる俺達が向かったのだ。
最後の一人だったのだろう幹部が、最期に送ってきた場所。雨の降りしきる廃倉庫は、死屍累々としていた。
確かに送った部下達が、物言わぬ肉塊となって辺りに雑多に散らばっていた。
見知った顔も多い。俺達に近かった幹部も既に事切れているようだった。
溢れた血肉で彩られたレッドカーペットの上に、硬質な革靴の足音が響いた。それが、終わりの始まりだった。
相手はその辺りのゴロツキなんかじゃなかった。隣の大陸から潜り込んでいた、俺達よりずっと大規模で、ずっと強いマフィアのボス。
力量差は明確だった。俺達に勝ち目はない。それでも、やれるだけやろうと、兄はそう言った。
それは戦いなんかではない。一方的な蹂躙。技術も、獲物の性能も。何もかもで負けていた。
奴が銃口をこちらに向けた時、俺は終わりを悟った。黒々とした金属の塊が、俺を貫き殺そうと静かに口を開いている。
だが、その口から吐き出された鉛玉を喰らったのは、俺の心臓ではなかった。
兄の、腹。人体の中で最も柔く、脆く、重要な部位。そこに、風穴が空いた。
碌な死に方をするとは思っていなかった。けれど、こんなのあんまりじゃないか。
溢れていく兄の命の温もりを、俺は止めることもできない。しとしとと降り注ぐ雨は、兄の痕跡さえ遺してはくれなかった。
これが俺達の絆の結末なら、こんな結末だと分かっていたのなら、初めからこんな絆なんて無ければよかった。
そうすれば、この、裏社会で首領なんてやっているクセに無駄に優しくて、首領のクセに前線にでて部下を庇うような、生傷の絶えなかった兄が死ぬことは無かったかもしれないのに。
改めて自分に向け直された銃口を前に、俺は兄の左手の薬指を強く強く噛んだ。
幼稚な執着だ。未来でもしも生まれ変われるのなら、もう一度見つけられるように。結婚指輪の紛い物は、俺が兄を縛り付けるためだけの、愛なんかよりずっと汚くて重たい想い。
兄の味が口に広がって、雨の降る街に似合わない銃声が一つ響いた。

テーマ:絆

3/7/2026, 8:22:12 AM