小説
迅嵐
「おー、すっかり晴れたなー」
おれはカーテンを開けて雲一つない空を見上げる。
昨日の大雨が嘘のようだった。窓も開けると、冷たい空気と一緒に澄んだ空気も入ってきた。まさに秋晴れ。
「じーーーーーん!!!」
聞き馴染みのある声で呼ばれ、そちらを向くと飼い犬のコロと嵐山が立っていた。嵐山は大きく手を振るオプション付き。朝からテンション高いなぁ。
「はいはーいちょっとまっててー」
声を張り上げ返事を返すと、おれは一旦部屋に引っ込んだ。クローゼットを開けると、数少ない服の中から少し厚手のパーカーを引っ張り出す。
「…今日はロングコースかな」
未来視では結構遠くまで散歩している様子が視えた。
「おはよう、迅。今日はちゃんと起きてたんだな」
「ん。おはよ、嵐山。今日はスッキリ起きれたよ。コロもおはよう」
コロの頭をわしゃわしゃと撫でると、わふ!と元気な声で返事をしてくれた。
「今日は紅葉を見に行こう」
そう言うと嵐山はおれの返事も聞かずに歩き出す。おれが視えたの分かってるなこいつ。
しばらく歩くと赤や黄色に染まった木々が見えてくる。秋晴れの澄んだ空によく映えていた。昨日の大雨には負けず、まだまだ元気のようだった。
「お、やっぱ生で見ると綺麗だな」
「だろう?」
自信満々に頷く嵐山はなんだか可愛かった。自分で色をつけたわけじゃ無かろうに、何をそんなに自信満々になっているんだか。
ふと、嵐山の指先を見ると少しだけ赤くなっていた。
無理もない、もう季節は秋。肌寒さが際立ってくる時期だ。
なんでもないように手を繋ぐ。
「…!」
驚いたらしい嵐山がこちらを見る。その顔はほんのり赤くて、紅葉のようだとぼんやり思った。
わふ!
ハッと意識を戻すと、足元でキラキラ目を輝かせたコロがこちらを見ている。なんだか下心を見透かされているようで、少し恥ずかしくなった。
「よし、コロ。お前も見ような」
嵐山はおれと繋いでいた手を離すと、よいしょ、と声を出しながらコロを抱き上げる。
繋いでいた手を離され多少ショックを受けていると、まだほんのりと顔を赤くした嵐山がこちらを見据え呟く。
「…また、繋ごう?」
きっと今おれの顔は、紅葉の赤といい勝負をしているに違いない。
10/18/2024, 1:24:39 PM