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 しとしと雨が降り続く季節になった。この間梅雨入りしたら、雨が待ってましたと言わんばかりに昼夜問わずずっと降っている。
 何日連続雨の日が続いたのに、今朝は快晴でカラッと晴れた。久々の青空に少しだけ浮ついていたんだと思う。てっきり雨は降らないんだと勘違いした俺は、傘を持たずに登校した。
 そして今、まさに帰ろうとした途端、土砂降りの雨が降ってきたのだ。
 ザーザーという音がぴったりの大量の雨を前に、俺は立ち尽くしていた。友達や他クラスのやつはみんな傘を持っていて「お先!」と言って帰っていく。
 俺だけ一人取り残された。寂しいけど仕方ない。傘を忘れてしまったのは、俺だからだ。

 暗くてベタベタする空気の中、空を睨んでいると隣からバンッと傘を広げる音がした。
「入れば?」
 そんなぶっきらぼうな声を掛けられて傘を差し出された。
「いいの?」
 俺は驚いて君を見た。つい先週、クラスの人に揶揄われるからって距離を置いたばかりなのに。
「いいんじゃない? ほら早く。私、早く帰ってドラマの再放送見たいの」
 君はニヤリと笑って「入れてやるからお前持てよ」と傘を突き出してきた。俺は君が好きな薄緑の綺麗な傘を受け取って、空に広げた。
 不思議なことにいつも君に頼るたび、君がどんどん魅力的に見えてくるんだ。君は一体どんな魔法を俺にかけているんだろう。


『相合傘』

6/20/2024, 12:23:26 AM