『1年前』『忘れられない、いつまでも』『モンシロチョウ』
俺は子供の頃、祠を壊したことがある。
それも、とんでもない悪霊が封印されているという曰く付きのモノ。
その時に起こった事は今でも鮮明に思い出せる。
あとでバレて怒られる所まで、絶対に忘れられない、いつまでも夢に見る衝撃的な体験だった。
あれは俺が小学4年生の頃、1999年。
若い子は知らないかもしれないけど、その年は『世界が滅ぶ』っていう予言が社会問題になっていた。
なんでも、めちゃくちゃ偉い預言者さんが、『1999年7の月、空からアンゴルモアの大王が降りてきて世界を滅ぼす』とかなんとか……
けど、結果は知っての通り、何も起こらず誰もが拍子抜けした。
冷静に考えればありえないことなんだけれども、信じる人は少なくなかった。
自暴自棄になる人も少なからず存在し、特に子供にとってトラウマになるほど影響力が大きかったんだ…
そして、子供の頃の俺もその予言を信じた一人。
ハッキリ言って落ち込んだよ。
だって大人になれないんだぜ。
子供にとって、これ以上残酷なことは無い。
でも、幸いなことに俺はバカな子供だった。
予言のことなんてすぐに忘れ、その時ハマっていた昆虫採集に精を出していた。
それを見た親は、自分の息子のバカさ加減に呆れていた。
ある日の事、珍しい虫を捕まえたいと思って山に入った。
山の中は危険でいっぱいだけど、子供の俺はバカだったからそんなのは知らない。
いや、知ってはいたけど、完全に無視した。
そして、意気揚々と山の中に入った。
でもそれがいけなかった。
山の中には危険がいっぱい、モンシロチョウを捕まえようと足を踏み出すと、木の根っこに足を取られ、その場で転んでしまったのだ。
そして偶然にも――不幸にもすぐそばに祠があり、体当たりするような形で祠を壊してしまったのである。
臨場感たっぷりにガラガラと音を立てて崩れる祠。
俺はそれを、呆然として眺めていた。
そして、残骸の山の上に留まるモンシロチョウ……
その時の俺の心中は説明するまでもないだろう。
(ヤバい!
バレない内に早く逃げよう)
ただそれだけだった。
でも結果として逃げられなかった。
突然、頭の中におぞましい声が聞こえてきたからだ。
『フハハハハ、これで封印は解けたぞ』
頭一杯に禍々しい笑い声が響きわたる。
その邪悪さから俺は確信した。
この声は、噂のアンゴルモアの物だという事に……
『礼をいうぞ、小僧。
この祠を壊したことで、俺の真の力を取り戻すことができる』
すると、祠の上に留まっていたモンシロチョウが見る見るうちに黒くなってきた。
『ククク、教えてやろう。
この蝶は俺だ。
力を封印され、蝶の姿にされてしまったが、力を取り戻せば巨大な――』
自信たっぷりに演説を始めるアンゴルモア。
その言葉には、勝利を確信した威厳があった。
だがアンゴルモアは知らない。
自分の目の前にいる子供が、町一番のバカガキと呼ばれていることを……
(この蝶、色が変わるレアものだ!?
捕まえないと!)
――次に気が付いた時、俺はアンゴルモアを虫かごの中に入れていた。
『え、ちょっと待――』
アンゴルモアが何かを言っていた気がするがよく覚えていない。
断片的に覚えているのは、もう少しその場にいないと力が戻らない、みたいなこと。
でも、何を言おうが、俺には全然関係の無い事だ。
「これを見せたらお父さんとお母さん、驚くだろうな」
俺は虫かごを決して無くさないように、大事に抱えながら下山した。
だが俺を待っていたのは、怒り心頭のお父さんとお母さん。
黙って山に入ったことを叱られ、連鎖的に祠を壊したこともバレて、さらに怒られた。
結局、蝶のことなんて言い出せる空気じゃなくなり、アンゴルモアの入った虫かごは、そのまま部屋の隅に放置された……
で、ここから本題。
そのアンゴルモアの蝶。
実は一年前に不注意で、掃除の最中に逃がしちゃったんだよね……
もう二十年以上たつし、普通に死んだと思ってゴミ袋を準備していたら、まさかの死んだフリだったらしく、隙を見て脱出された。
気がついたら手の届かない高さまで飛んで、窓の外に出ていってしまったので、二度と捕まえられなかった。
本当に、世界の皆には悪い事をしたと思っている。
俺は大人になっても、バカなままだったのだ……
え、何をそんなに謝っているのかって?
うん、あの蝶を逃がした時期ってさ。
ちょうど、アメリカの大統領選挙があった時期なんだよね。
で、多分だけど、アンゴルモアはアメリカに渡って、大統領に成り変わってる…… か、裏から操っていると思うんだよね。
あの大統領は高齢だし、おだてれば簡単に言うことを聞かせられて踏んだんじゃないかな。
そして、1999年に世界を滅ぼせなかったから、今大統領を使って世界を混乱に陥れている……
――というのは、発想の飛躍が過ぎるだろうか?
まあ、なにはともあれ、とにかくゴメン。
うん、本当にゴメン。
5/17/2026, 2:17:42 AM