安達 リョウ

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お祭り(屋台無双デート)


「リンゴ飴おいしー!」
「おう。そりゃ良かった」

境内の隅に座り、彼女が美味しそうにそれを頬張る。
履き慣れない下駄に苦戦しながら、何とかここまで辿り着いた頃にはもう真っ赤に擦れていた。
―――歩けない。
涙目で駄々を捏ね、うるうると自分を見上げた彼女に、仕方ねえなと彼がリンゴ飴を買ってきて隣に座り直したのが今しがた。

「ごめん、下駄なんて履くの久し振りだったから」
何かしらの為に常備していた絆創膏を擦れた箇所に貼り、彼女が意気消沈して呟く。
彼はぽんぽんと頭を軽く叩くと、気にすんなと自分も買ってきたペットボトルを飲み干した。
「俺も疲れてたし、丁度よかった。今日もあっついから、すぐ体力奪われちまうな」
「うん。今夜は過去最高の熱帯夜になるでしょうって予報でも言ってた」
「げ」
彼がうんざりした面持ちで舌を出す。

「―――で、これからどうする? 痛いなら無理すんな。帰るか?」
「やだ」
食い気味の即答。思わず彼が苦笑する。
「だってまだ、射的も輪投げも金魚すくいもしてない!!」
やだやだ!
ぶーと膨れるその姿に、彼は声を上げて破顔する。
「あっはは。わかったわかった、やりたいの全部終わるまで付き合うって。お供しましょう、どこまでも」

敵わないよ、お前には。

優しい眼差しに頬を染めながら、彼女はさらにこう言葉を続ける。
「射的も輪投げも金魚すくいも、得意だもんね?」
「え」
俺? 俺がやんの?
自分を指差す仕草に、彼女は真顔で頷いてみせる。

「だって足痛いし」
「ああ………、まあな」

………確かに射的も輪投げも金魚すくいも得意だけれども。一年経って、なまってないといいけどなあ。
どこか不安を覚える俺に、彼女はあ、と何かを思い出す。
「金魚すくいはわたしやるね。隣で見てて、いっっぱいすくうから」

そうして何匹か貰ったら家に持って帰って、去年すくった時に買った金魚鉢にすぐに一緒に入れてあげるの。
わたしとあなたみたいに、ずっと仲良くいられるようにって願いをかけて。

―――彼女は彼を促して立ち上がる。
既に痛みの引いていた足にホッと胸を撫で下ろすと、まずは手始めに射的の屋台へ、彼の手を引き歩き出すのだった。


END.

7/29/2024, 6:23:35 AM