「あ。」
横から彼の声が聞こえたが、私は顔を上げなかった。
母からのメッセージをさらりと返してしまうと、手持ち無沙汰に夜空へ顔を掲げた。すると、「私を見て」と言わんばかりに煌めく流れ星が降り落ちてくるのを目撃し、思わず「あ。」と声が漏れた。
「流れ星やんな」
へらりと笑っていそうな声に同感するのが癪で、「うん」と適当に返事をし、またスマホに目を向けた。母からのメッセージはまだ来ていない。憂鬱な時間に本当に舌打ちが漏れそうになる。
「俺ら、あの、付き合った時、見たよな」
「……」
「初めてデートした時や。えっ…と、あれ、映画見に行った日」
「……」
「…あの……見んかった?流れ星。夜、二人で外見てた時」
「…いや、初デートは映画じゃないけど」
顔色を伺う話し方にイライラとし、はあとため息だけ遠慮なくさせてもらった。まだ関係を繋ぎとめようとする会話の出だしに、世の全ての男が嫌いになりそうになる。
「別にどうでもいいけど、カフェに行った日でしょ、それ。夜、公園で」
「あ…そうそう、きれいやったな、流れ星。咲良、願い事言ってたやんな」
「覚えてない」
「…そっか」
横から聞こえるか細い返事の主は、見えないけれど、苦笑いをしていた気がした。うざったいくらいに気を遣った、困り顔の笑い。心の中では泣いてそうな下手な笑顔。見飽きたその顔は今日はとことん眼中に入れたくなくて、ずっと前を向くことにしていた。
「俺さ、あの日初めて流れ星見てさ」
「ほんまに、降ってきたから。びっくりして」
「……いや、こんな話興味ないよなぁ」
「最後に、流れ星見たから、ちょっと…なんか、悲しくなって」
見えない困り顔の横顔は、鼻をすすっていた。
私は返事を返さず、目前の夜空を見ていた。
しん、と降り落ちてくる流れ星に、願いを伝えることもせず、ただただ、降りゆく流れ星と一緒に、彼との最後の時間を過ごした。
流れ星に願いを/
4/25/2023, 1:49:54 PM