【新年】
『いや〜明けましておめでとうございます。とうとう新年やねぇ』
なんとも間の抜けた声。両耳を覆うヘッドフォン越しにそれを聞きながら、指先に挟んだ煙草をくしゃりと灰皿に押し付ける。今喋っているのは、俺がここ数年ずっと推している配信者だ。顔は映しておらず、代わりに可愛らしい虎のキャラクターが画面上でゆらゆら揺れている。いつもなら彼の配信を見ているのが何にも代えがたい至福の時間だが、今は違う。俺は内心焦っていた。めちゃくちゃ焦っていた。なぜって?彼の口から語られるエピソードの全てに、聞き覚えしかなかったからだ。
『そうそう、初詣行ってきたんよ。そこでおみくじ引いてんけどさあ…』
(…「結果は大凶だった、今時そんなことある?せめて凶までやろ。」…だよな)
画面の中の彼が話すよりも先に、その続きを脳内で諳んじることができてしまう。知ってる。だってそれ、昼間に聞いたのと一言一句同じ。爆笑しながら話していた友人の声が、脳内でリフレインする。
『しかもさ、俺大凶引いてんのにさ、一緒に行った友達引いたの大吉やで?まじでやってられへん、俺の運全部吸われてるんちゃうかな』
机の上に投げ出した財布から、紙切れを一枚取り出して広げる。そこには、でかでかと書かれた「大吉」の文字。
それから、微かに震える指でスマホを操作する。今日の初詣で友人と撮った写真。大吉のおみくじを持った俺と、それから、大凶のおみくじを持って泣き真似をする友人が映っている。…いや、いやいやいや。まさか。まさか、ね。
『なになに、「初詣一緒に行ったの女?」…なわけないやん。男よ男。中学時代から仲いいヤツ』
点と点が線になって、繋がってしまった。画面の向こうで今喋っているのは、俺の最推しだ。そのはずなのに、なのに、目を閉じれば頭に浮かぶのは今日の昼間一緒に初詣に行ったばかりの親友の顔で。
(…………俺の推し、アイツだったの…?)
俺が数年前からずっと生きる糧にしていた推しが、中学時代からの親友だった。
ああ、新年早々、こんなことがあっていいのか。まだあと一年、あいつと同じ大学に通うんだぞ。毎朝一緒に通学してるんだぞ。どんな顔をして、あいつに会えば。
「神様…嘘だといってくれ…」
ピロン。配信終了とほぼ同時に通知が鳴る。今日はありがとう、今年もまた一年よろしくな!なんて呑気なメッセージに、俺は何も返せないまま項垂れた。
1/1/2026, 11:21:07 AM