お気に入りのボールペン、ティーカップ、カーディガン、ブーツ。
いつもの場所に、いつものように。
いつでも使えるようにそこにある。
ボールペンは書きやすくて好きだと言っていた。
ティーカップは青い花の模様が綺麗だと。
カーディガンは好きなブランドの好きな色で、ブーツは黒いレザーが艶やかなところが好きだと言っていた。
「·····」
全部おぼえている。
この部屋で君がどんな風に過ごしたか。
白いシーツと水色のカーテンが、昇る朝日に輝いている。
朝一番に窓を開けて、太陽が顔を出していると君は途端に上機嫌になった。
雨が降ると少し気力が無くなって、気だるげになるのがセクシーだと思った。
「·····」
全部おぼえている。
マッシュポテトが好きで、紅茶が好きで、トーストが好きで。
晴れた朝が好きで、雨の夜は苦手で、家族の話をするのが好きで。
君がどんな風に生きたか、すぐに思い出せる。
今にも君がドアを開けて、机の上のボールペンと椅子に掛けてあるカーディガンを持って仕事に出かける姿を。私はまだパジャマで、そんな君を「いってらっしゃい」と言って送り出す。
いつもと同じ朝。
いつもと同じ部屋。
いつもと同じ私。
ただ君だけがいない。
君のいない生活が、これから何年続くのだろう。
私はそれに、何年耐えられるのだろう。
――あまり自信が無い。
END
「ただ君だけ」
5/12/2025, 3:13:33 PM