案山子のあぶく

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◎終点

───終点は師走、終点は師走

一年間の終わりを冠する駅が近づいてくる。
自分以外のヒトが居ない車両に響く放送案内とカタンカタンという音を聞きながら、女は窓の外を見やった。

夕焼け色に染まった空の下、
田んぼのあぜ道に小さな人影を2つ見つける。

2つの影はこちらに手を振って、
電柱の残像と共に掻き消えた。


一方通行の電車は一年と生涯を共に運ぶ。

この道のりを通るとき、人影が少ないことが平和な時代の証だと女は思うのだ。


ただ、時々。
女以外の者が迷い込んで乗ることがある。

三途の川を渡るためのこの電車で、
終点である師走まで来てしまったら二度と戻ることはできない。
だから、女は帰りの道をこっそり作った。
そこで降りれば無事に家に帰ることができる。

もとの時間へ戻れる最後の駅の名は

『きさらぎ駅』という。

8/10/2024, 10:48:04 AM