美佐野

Open App

(秋色)(二次創作)

 随分と秋色めいてきた景色の中、ハモは静かに本を閉じた。
 たまに冷たい風が吹き付けるけれど、全体的には過ごしやすい季節となった。ハモが今腰を下ろしているのは家の裏庭で、枝を組んで作ったラティスに這った葛が濃い桃色の花を咲かせている。ジュピター灯台が近く、ひとたび村の外に出れば前より強くなった魔物が跋扈しているというのに、ここはとても静かだった。
 聞こえる音といえば、風に揺れる葉の音、枝から落ちる木の実の音、そして規則正しい寝息がひとつ。
(ガルシア)
 過酷な運命を背負いながらも、仲間たちと力を合わせて世界を救ったこの青年は、時折こうしてハモのところに顔を出す。はじめのうちは、自分で育てた野菜や妹に持たされたお菓子、旅先で見つけた古書などを言い訳にしていたが、このところは身一つで姿を見せる。何を話すでもなく、ただハモのそばで羽を伸ばし、またどこかへ旅立っていくのだ。
(よく寝てる……)
 歴戦の戦士でありながら、ハモの前では子供のように無防備だ。たとえば、その頬にそっと触れても身じろぎひとつしない。
 今、村の外は大変な事態になっている。黄金の太陽現象をきっかけに、それまで隠されていた闇と光のエナジーが生まれた。魔物は強くなり、天変地異もあちこちで起きている。不安に苛まれた人々の間で、いくつかの諍いが起き、国が生まれては呑み込まれを繰り返していた。
(ギアナは今のところ、誰の干渉も受けていないけれど)
 空を見上げる。随分と高くなった空は秋そのものだ。続いて、ガルシアの寝顔に視線を戻す。あどけなささえ感じるその表情に、ハモの心はすうっと落ち着いてくる。
 ガルシアの気まぐれがいつまで続くかは判らないけれど。ハモは、そっと、乱れた前髪を払ってやる。
(来年の秋も、こうしてあなたと過ごせたら……なんてね)
 ガルシアが僅かに動く。少しだけ気恥ずかしくなったハモは、閉じた本を再び開いた。

9/22/2025, 2:25:43 AM