安達 リョウ

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嵐が来ようとも(そもそもの話)


とあるラーメン屋の、若い夫婦が経営するちんまりした個人店。
開店して暫く経つと、その美味しさの評判が人づてに広まり、あれよあれよと地元一の人気店へと駆け上がった。
それもひとえにこの夫婦の日々の研究の賜物である。
禄に休日も取れなかったが、夫婦は忙しさもやり甲斐に変え、毎日来店してくれる客に美味しいラーメンを提供し続けた。

ある日。入口に“注意”と記された張り紙が貼られる。

【未就学児同伴のご来店はお断り致します】

「あれ、こんなの前貼ってあったっけ」
「いや、なかったな。何かあったのかもね」

昼時、行列に混じって並んでいた常連が見慣れない張り紙を見て不思議がる。

「ちょっとどういうこと!? 年齢制限なんて聞いてないわよ! 撤回しなさい、子供だってラーメン食べて何が悪いの!」
「いえ、当店の決まりです。お子様はご利用頂けません」
はっきりと、きっぱりと。
店主が入ろうとした子連れの客に、入店拒否の姿勢を崩さない。
その態度に頭にきた客は、ネットにこの店を曝して拡散してやる!と喚き散らして去って行った。

―――店主が溜息をついて呟く。

「ほんの4、5歳の子にこの味がわかるわけないだろ………」

“超絶!激辛ラーメン専門店”

………真っ赤に染まった看板が、どうやらあの人には見えないらしい。

激辛に目の無い強者揃いの行列の中で、常連が店主の呟きに同情しつつ力強く頷いていた。


END.

7/30/2024, 6:58:41 AM