水が流れる音がする。白いシンクは、ほんのりと赤みを帯びている。拳には血豆。
血はとっくに止まった。傷は大きくない。骨も問題ない。それなのに手を洗い続けている。
棒立ちで、無表情。狂ったように、見えない血を洗い落としている。
消えない。
忘れたいのに、身体の芯から離れない。手の皮膚から自分の中に入り込み、身体の一部と化した。
手にはまだあの感触がこびりついている。手の甲の痛みと、温かい鮮血。鼻の骨が折れる、あの独特の音。
『忘れたくても忘れられない』
10/17/2022, 1:23:15 PM