YUYA

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**「秋恋。この声が届くまで」**



秋の風が、木々の葉を静かに揺らしながら、冷ややかな空気を運んでいた。夕日が西の空にゆっくりと沈み始め、朱色の光が街並みを染める。そんな夕暮れ時、千秋は学校の裏庭にある一本の大きな楓の木の下にいた。

楓の葉が紅く染まり始めるこの季節、千秋はいつもこの場所に足を運んでいた。それは、彼女が秘めた想いを胸に、いつかその声が届くことを夢見ているからだった。

数年前の夏、千秋は初めて彼と出会った。彼の名は湊。明るく、誰にでも優しい湊の姿に、千秋は次第に心を惹かれていった。しかし、千秋は内気で控えめな性格だったため、その想いを伝える勇気が持てなかった。いつも遠くから彼を見つめるだけの日々が続いていた。

「このままじゃ、何も変わらない…」
千秋は何度もそう自分に言い聞かせたが、言葉が喉元まで出ては消え、彼に向けた声は届かないままだった。

そして季節が秋に変わり、湊が転校することを知ったのは、まさに紅葉が深まる頃だった。千秋は、その知らせを聞いた時、何かが心の中で崩れ落ちる音を感じた。このままでは、彼がいなくなってしまう前に自分の想いを伝えることすらできない——そう思うと、彼女の心に焦りが募った。

ある日、千秋は思い切って、湊を学校の裏庭に呼び出すことを決意した。楓の木の下で、彼女は震える手で小さな手紙を握りしめていた。それは、彼に渡すための自分の気持ちを込めた言葉が詰まったものだった。

「湊くん、来てくれるかな…」
千秋は、沈みゆく夕日を見上げ、深い息を吐いた。そして、湊がいつかこの場所に来ることを願って待った。

日が完全に落ちる頃、足音が背後から聞こえてきた。振り返ると、そこには湊が立っていた。秋の冷たい風が二人の間を吹き抜ける中、千秋は心の中で言葉を繰り返した。

「湊くん、私…」

声が震えた。しかし、今まで心に抱いてきた想いが、彼女の口から零れ落ちた。

「私、湊くんが好きです…ずっと、ずっと前から…」

湊は静かにその言葉を聞き、少し驚いた顔をしながらも、優しく微笑んだ。

「千秋、ありがとう。実は…僕も、君に伝えたいことがあったんだ。」

彼はポケットから一枚の葉書を取り出し、それを彼女に渡した。そこには、転校先の住所が書かれていた。

「僕も君のことが好きだった。でも、転校することが分かって、どうしていいか分からなかったんだ。だから…もし僕がいなくなっても、この葉書に手紙を送ってくれないかな?君の声を、ずっと待ってる。」

千秋の胸に温かいものが広がった。紅葉が風に舞い、二人の間を色鮮やかに彩る。今、ようやく二人の想いが交差した瞬間だった。

秋の風は冷たくても、二人の心は温かく響き合っていた。この恋は、やがて距離を越え、手紙という声で繋がっていく。千秋はその手紙を握りしめ、心の中で誓った。

「この声が、いつまでも届くように。」

9/22/2024, 3:21:17 AM