海月 時

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『またな。』
貴方が言う。何度目だろう。貴方とは会ってはいけないのに、僕は次を期待してしまう。

「自分らしく生きろよ。」
あれは確か、僕が警察官だった頃。殺人鬼の僕に先輩が言ってくれた言葉だ。先輩は僕の、地獄に逝きたいという狂った願いを受け止めてくれた唯一の人だった。そんな人を僕は殺した。自分の夢のために。先輩が何故あんな言葉を僕にくれたかは分からない。そして、僕は答えを知るために、自らに刃を立てた。

今の僕は、地獄に住み着き、悪人に罰を与える悪魔だ。そして、先輩は天使となった。当然の事だ。誰よりも優しい貴方にお似合いだと思った。先輩は時々、地獄にこっそりと遊びに来る。来てはいけないと何度言っても聞く耳を持たない。そして今日も僕は先輩に連れられていた。
『何故こちらに来るんですか?』
『お前に会いに来てるに決まってるだろ。』
また、貴方はそんな事を言う。止めてくれ。期待してしまうから。僕は先輩が好きだ。口調が荒いのは照れ隠しな所も、お節介な所も、誰にでも優しい所も全部好きだ。性別なんて関係ない。それでも、どれだけ思いが強くても僕達は天使と悪魔なんだ。幸せにはなれない。
『先輩は何故、あの言葉を僕に言ってくれたんですか?』
先輩は当然のように言う。
『お前が俺に殺人鬼だって言った時思ったんだ。こいつはいつも自分の心も殺しているんじゃねーかって。だから、可愛い後輩には幸せになって欲しいと思ったんだよ。』
涙が止まらなかった。太陽のように輝いて見えた。そして、先輩への思いが膨らむ。気を抜いたら、告白してしまいそうだ。
『ありがとうございます。』
『おう。じゃあそろそろ戻るわ。またな。』

今日も僕は、天を仰ぐ。上には貴方が居る。この恋が実らなくたって、いい。貴方がいるだけで、それだけでいい。今日も僕は、届かない思いを叫び続ける。

5/11/2024, 12:04:54 PM