空想

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チリーン

肌にべっとりついた汗が遠くからやってくる風に当たり、僕はぶるりと体を震わせた。

「たくぼう、これで汗を拭いなさい。」

さっきまでテレビを見ていた爺ちゃんが白いタオルをもってきた。

「ありがと、爺ちゃん」

爺ちゃんはよっこらっしょっと隣りに座った。
しばらくして、爺ちゃんが話しかけてきた。

「たくぼうは好きな女いるのか」

「急にどうしたの、いないよ」

「本当か?」

爺ちゃんは僕の目をそらさず、真剣な顔をする。
本当は僕は好きな人がいる。
それを(多分気づいているけど)爺ちゃんに言うのが恥ずかしかった。
 
「そうか。でもまあ、好きな人ができたらアタックするんだぞ」

「わかったよ。でも何で急にそんなこと聞いてきたの?」

「昔のことを思い出したんだ。わしが小学生の頃だった。」

それから爺ちゃんは昔の話をしてくれた。

「早く〜!置いてくよぉ」

「待ってよー」

赤いランドセルを背負った女の子が数百メートル先に頬を膨らましながら待っていた。

全速力でその子のもとまで行き、その場に座り込む。

「ちょっとここで座らないでよ、休むならあのベンチで休も」

指さしたのは、駄菓子の前にあるベンチだ。
重い体を起こし、駄菓子屋のベンチに座った。

「学校から帰ってすぐ、集合って言ったよね」

「ごめん、母ちゃんに叱られてたんだ」

「あー、テストの点数悪かったもんね」

今日は、神社で生まれた子猫を見に約束をしていた。
しかし、この日に限って母ちゃんに怒られてしまった。

「十分休んだし、行こ!」

神社に行ってみると可愛い子猫が待っていた。
子猫たちと遊んでいるうちに日が傾き始めた。

「遅くなってきたし帰ろう?」

「そうだね」

帰り道、女の子はポケットを漁って、慌てだした。

「どうしよう、落としてきちゃった」

「何を?」

「とっても大切なものなの。多分神社にいるから先帰ってて」
 
「でもこれから戻ったら家に変える前に日が落ちるよ」

止めたが言うことを聞いてくれず、結局僕だけ先に帰ってしまった。

その日の夜、その子の父が僕の家を訪ねてきた。 
どうやら、まだ帰ってきてないらしい。
 
その日を境に彼女を見ることはなかった。





....

「これはわしの憶測だが、なくしたというのは、わしが小学生になる前にあげた貝殻かもしれん。」

「爺ちゃんはその子のことが好きだったんだね」

「婆さんには内緒だぞ」


長い夏休みが終わり、学校が始まった。

ランドセルに教科書をしまって帰ろうとすると、隣の席の子が話しかけてきた。

「近くの神社で子猫が生まれたらしいから家に帰ったらすぐいつもの場所に集合ね」

5/3/2024, 1:50:24 PM