いのり

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「好きな本」

 80年代だった高校生の頃、洋楽が流行っていて、私も意味もわからないのに毎日聴いていた。
 特にマイケル・ジャクソンが大好きで、お金を貯めて、いつかコンサート(今の言い方ではライブだろうか)に行こうと思っていた。
 また当時は海外旅行ブームだったのか、海外の国を特集したテレビ番組が多く、これらを見るのも大好きだった。
 田舎の高校の図書室の蔵書の中に、地理の参考図書として、すべての国ではないものの、各々の国の特徴とカラー写真が載っている図鑑のような本があり、これが当時の私の好きな本だった。これを放課後に何度も覚える程繰り返し見て読んでいた。
 この本にあったシルクロードで有名な敦煌に行きたかった。

 今思うと浅はかな考えだったのかもしれないが、これらの夢を叶えるべく、お金を貯めることを目的に看護師の道を進んだ。想像以上に多忙を極め、夢を馳せる時間が少しずつ減り、いつしかなくなっていた

 10年以上の月日が流れ、私は結婚し、家事や育児や仕事で、慌ただしい日々を過ごしていた。

 ある日、テレビを見ていたら敦煌の町が映っていた。私は信じられなかった。あまりにも賑わい発展している都市となっていたのだ。
 そして数日後にはマイケル・ジャクソンの訃報が報じられたのだった。
 その頃の私の好きな音楽は童謡や子ども向けの歌、好きな本は子どもと読む絵本だった。

 さらに20年以上過ぎた今、自分をどこかへ置いてきてしまったような喪失感のようなものを感じている。
 今の私の好きな本は小説になった。

 いつかの「好きな本」はもうないだろう。

6/16/2024, 9:56:07 AM