【終わりにしよう】
いつものように街をぶらついて、いつものように映画を観て、いつものように入った喫茶店。個人経営の落ち着いた店内には、心地の良いクラッシック音楽がゆったりと流れている。ボックス席の向かいでミルクレープを美味しそうに頬張る君を眺めながら、僕は小さく息を吸い込んだ。
出会ってから十年以上、誰よりも親しい友人という関係性を続けてきた。お互い恋人がいた期間もあるし、互いにずぼら同士、連絡を頻繁に取るわけでもない。
別れた恋人たちのことを思い出す。毎日のようにSNSで睦言を交わすのは面倒だったし、デートをしていても君とならもっと気楽なのにとしか感じられなかった。あの子たちと一緒に生きる自分の姿なんて想像もできなかったけど、君の隣でしわくちゃのおじいちゃんになる自分は容易に思い浮かぶ。
どきんどきんと自分の心臓が痛いくらいにうるさい。だけどもうお互いにいい歳で、僕も君も両親からお見合いの話なんかを振られるようになった。これ以上、先延ばしにはしていられない。
「ねえ、君に話があるんだ」
緊張で情けなく震えた僕の声に、君はかちゃりと音を立ててフォークを置いた。さっきまでお気に入りのミルクレープに疲れていたのに、真剣な表情で僕へと向き合ってくれる。そういうところが――。
(好きだなぁ)
だからもう、終わりにしよう。特別な友人なんて曖昧な定義で、自分を誤魔化し続けるのは。余裕ぶった笑顔を必死に取り繕って、僕は唇を持ち上げた。
「僕と一生、一緒に過ごしていくつもりってない?」
7/15/2023, 9:53:53 PM