「濡れるよ。入れば?」
照れも焦りもせず君が言った。ぼくのほうがこんなに真っ赤になって恥ずかしい。
「……ありがとう」
「どーいたしまして。ね、アンタのほうが背高いんだから持ってよ」
ずい、と君は傘の柄の部分を押し付けてくる。言われるがままそのとおりにした。その際なるべく右側に傾けて傘をさすけど、そのことがすぐにバレて僕は怒られる。これじゃ意味ないでしょバカ、だって。
意味はあるよ。有りすぎだよ。こんな展開誰が想像しただろうか。ここ最近僕は何か正しい行いをしただろうか。何か徳を積むようなことを実践したのだろうか。全くもって自覚がないけど、多分神様が僕の何かを見てこんな展開にしてくれたんだと思う。
「あーあ。明日も雨だって。サイアク」
「仕方ないよ、梅雨入りしたんだから」
「……アンタ少しは冗談とか言えないわけ?」
至近距離からジトリと睨まれ僕の目線は行き場を無くす。こんな時に冗談なんか言えるわけないだろ。頭の中では反論しながらも必死に“冗談”を考える僕って。
「だぁから、“雨のおかげで君と相合傘できたよ”とか、言えないの?」
「え……」
だって、それって。
冗談じゃないじゃないか。
事実なんだから、簡単に言えやしないよ。
6/20/2024, 10:26:11 AM