60七夕
同じ市内にあってふだんはそれほど接触のない男子校と女子高。
この二校が、七月七日だけは正式に交流する。
なんと甘酸っぱい、ラブコメ的事実であろうか。
きっと、ういういしいカップルが生まれたりするに違いない。
まさに青春だ!
と思うかもしれないが、実際にはそうそうロマンチックなものでもない。
二つの高校の生徒会が初夏の一日だけ、会議室で落ち合う理由。
それは「学校の近所にある緑地の夏休みの使用権を取り合って争わねばならないから」である。
今年も例年通り、バチバチにやりあっている。
「八月一日の夕方はうちの映研が撮影に使うんですけど?」
「うちの生物研究会とキャンプ同好会もここが希望だ。譲れない」
「それは二日以降でどうにかならないんですか? 映研はどうしても、この日の月をバックに撮影がしたいと言ってます」
「うちの生物研究会も、この日が最もカトンボの羽化が多い日だから譲れないと言っている」
……こういう具合で、両者一歩も引く様子がない。
男子校側の教員である私は、生徒の自主性を重んじてじっと黙っている。部活の活動場所とりには、それぞれの学校のメンツと、夏休みの充実度かかかっている。これは戦いなのだ。なんとも殺伐とした織姫と彦星だが、きっとこういうのも青春なのだろう。本格的な夏は、もうすぐそこだ。
7/8/2023, 9:03:56 AM