しじま

Open App


 目の前には、まっさらなキャンバス。
かれこれ2時間、この忌々しい白とにらめっこをしていた。
 右手に持った鉛筆を上げては下ろし、また上げては下ろしの、完全に無駄な2時間である。
それもこれも全て、このキャンバスが悪いと私は確信していた。
大体からしてサイズが大き過ぎる、「ちょっと大きいかな?」なんて呑気に電車に揺られて帰ってきたがF20は流石に邪魔だった。
 膝の上に立てて持っていたが、電車の外からソレを見たら、足だけの幽霊かと一瞬ギョッとして、隣の車両に移動するだろう。

 実際、最寄り駅て降りるまで、誰一人乗ってこなかった。

そのF20のキャンバスを自宅の趣味部屋の壁に立て掛けて、「やっぱデカすぎたかー」と苦笑いしたのが2ヶ月前のこと。
年末年始の忙しなさに感けていたら、気付けば、あと数日で4月に入る頃だった。
 下絵はとうに出来ていて、後はソレをキャンバスに描き写していくだけなのだが、なかなか踏ん切りがつかない。
昔から、何も描かれていないところに黒で線を引く行為に、何故だか罪悪感が湧くのだ。
 我ながら難儀なことだ、とキャンバスに向かって鉛筆を高速連打するのであった。

テーマ「好きじゃないのに」

3/25/2023, 5:40:28 PM