黒尾 福

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 涼しげな空が広がっている。茜色の空、散りゆく銀杏の木、真っ赤な絨毯で敷き詰められた並木道。
 僕の隣に君は歩き、無言のまま幾ばくの時が経っていた。
「もうお別れね」
 隣で恋人が寂しそうに笑う。僕はそれを否定したかったが、返す言葉が思い当たらない。
 少し前から感づいていた。僕等の間に吹く風がどんどん冷たくなっていることに。
 決めては君の格好だった。普段から見せていた僕の好きな服が様変わりしていくのを見て見ぬふりをしていた。
「ごめんなさい、もう私、限界だわ」
 君の潤む瞳に僕は微笑み返す。心の内を隠すには笑顔が一番だ。
「もうこうして歩くこともなくなるんだね」
 僕の言葉に彼女は俯く。それを同意と取って、僕も本心を口にした。
「僕もだ。もう、ここに居たくないくらいなんだよ」
 彼女は一瞬目を見開いて、くすっと笑った。
「じゃあ、もう終わろうよ」
「……ああ」
 名残惜しく、この並木道を進む。もうこうして歩くことなんてないのだろうか。
 僕は彼女と手を繋ぐとともに体温を分け合った。
「こうすればせめて寒くない、かなぁ……」
「もう。だからもう少し着込んできたらって言ったのに!」
 君の言う通りのすればよかったと後ろ髪を掻きながら、僕は心の内でため息をつく。
 昨日までちょちょ暑いくらいだったのに。
 秋よ、サヨナラを言う前に、そろそろお暇するって言えないものだろうか。



テーマ:サヨナラを言う前に
タイトル:あまりにも 寒くなるのが 早すぎる

8/20/2023, 2:44:18 PM