ゆかぽんたす

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「ごめん、遅れた」
「もーう、遅いよぉ」
息せき切って駆けつけた僕に笑って抗議する彼女。いつもの、窓際の席に座っていた。テーブルの上にはカップと文庫本がある。
「何読んでたの?」
「最近出たミステリーだよ。お気に入りの作家さんなの。はい、メニュー」
「ありがとう。じゃあ……」
「アイスコーヒーでしょ?」
「うん」
僕は決まってアイスコーヒー。彼女はホットカフェラテ。まだ付き合うようになる前から互いにそれをよく飲んでいた。恋人関係になった今は、お互いの好きなものをもっと知るようになった。彼女の好きなものは、カフェラテの他に花と猫とミステリー小説。それと甘いもの。僕のアイスコーヒーと一緒に運ばれてきたパフェにさっそく目を輝かせている。
「今だけ限定なんだって。葡萄のパフェ」
いただきまーす、とパフェスプーンを手に満面の笑みをこぼす。この笑顔をこんな特等席で見られるのは僕だけの特権なのだ。
「もうすっかり秋だね」
「キミは読書の秋か、食欲の秋ってところ?」
「うん。あとね、旅の秋にしたい」
「旅?」
「うん。旅」
一口食べる?と眼の前に近付けられたクリームとアイスの乗ったスプーンを口に含んだ。冷たくて舌の上がひんやりする。
「私たちが出会ってから、まだ一緒に秋を過ごしてないからさ。だからいろんな景色を見に行くの。秋特有のものを見つけに旅をしたいの」
僕らが出会ってからもう間もなく1年が経とうとしている。初めてのデートで冬のイルミネーションを見に行った。春の桜の下で告白をした。夏祭りで浴衣デートをした。季節ごとに色々な思い出が出来たけど、彼女の言う通り、秋はまだ付き合ってから経験したことがなかった。
「この秋も、春や夏に負けないくらいいっぱい思い出できるといいな」
「そうだね」
秋は感傷的になるとか誰かが言ってたけど、僕はワクワクする気持ちが止まらない。こうやって、何気ない日常が積み重なってゆくんだろう。キミと過ごす日々に幸せを感じながら、この先も沢山の未知のことが待ち受けてることを願う。

(……after 9/25)

9/26/2023, 1:09:52 PM