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崇められたかみさまのおはなし。「つばさをください、なるたけじょうぶな、かぜにもまけず、とべるしろものを、はやしてください。」かれはものを与え、すみかをつくり、日ごとみっつ、あかんぼうから、ながく息をすう年輪までかなうかぎり、かれはてた土地に、豊穣をもたらした。ちぎりを守ったあかつきには、ちいさくささやかな花の蜜を美酒に溶けあわせ、ねかしこんだカクテルを献上したのちに、宴をひらく習わしがあるという。病に伏せたははおやには、たちまち効く薬草をおしえ、まなびにうとい少年に、つたえ聴く伝承の人物はいかに、苦難にひざまずき、のり越えたかをすこしずつ、惜しむように語りかけた。ふゆにはみなしずまりかえる為、生命のよろこび唄う日まではと、さいごの夜だった。少女ははだしのまま、ろくにみなりもととのえず、祈りをささげ、つばさがほしい、と、となえた。これにはかみさまもこまり果て、まゆを寄せては、肩にそうっと手をそえ、「いいかい、きみたちの、かみさまだというしろものは、すくなくともぼくには、そなわっていないんだ。この身の、永らえた歳月はひとのこよりおおかれど、この地を耕し、うまれさせるまねは、できやしない。はねより象る、いのちのかけらだから、ないものを編みだせるものを、きみに渡せやしない。けれどね、とおくへゆけるあしなら、みちしるべをあげよう。みずからの眼差しで、ひろく旅をなさい。」やわらかく、陽射しのあたたかな微笑みをうかべたかみさまは、愛馬のこども、シャーナをつれてきてはめのまえに、少女のてのひらをゆうどうし、仔うまの毛なみをなでさせて。十四の歳に、むらを出てよいというしらせと、シャーナとのみちなるあす、あらたな門出をしゅくして、くらくなろうと、灯りをともしつづけた。じつはこのとき、さいわいの小唄をくちずさみ、そのうえ、わざわいをさける組み紐を、ひとりといっとうに、旅路に、はれわたる景色がやくそくされていることは、かのじょたちはしらない。それでいいのです。咲いては散り、うまれてはなくなり、ほしになり、つきとなり、太陽となる。いとおしむとはきっと、おこないの巡礼をすぎてなお、すすめること。あるもの、あれるものをできうるかぎり、確かにして。かみさまは、たびを眺めている。このさきも、かわらずに。

1/19/2026, 11:45:32 AM